かぶと湯温泉 山水楼(神奈川県厚木市)|神奈川とは思えない秘湯感!食と源泉かけ流しへのこだわりを感じる一軒宿

奈川県の温泉といえば、多くの方は湯河原や箱根など、南西のエリアを思い浮かべるのではないでしょうか。実際、温泉資源が豊富なのは静岡県との県境付近であることは、その良質な温泉宿の多さからも窺い知ることができますが、実は県央あたりにも、数は多くないものの温泉を源泉かけ流しで提供する宿が存在します。

 今回は、神奈川県厚木市にある七沢温泉郷の中でも、特に個性的かつ源泉かけ流しにこだわりを持つ温泉宿「かぶと湯温泉 山水楼」に行ってまいりました。後述の通り、ここの泉質は神奈川県央とは思えないほど格別で、トロットロです。たまたま本厚木の方に用事があったので本当はそのまま宿泊をしたいところでしたが、基本的に1名宿泊はNGとのことでしたので、代わりに「昼のお食事付プラン」で日帰り入浴した際の入湯記録になります。

※本記事は訪問日(2022年10月8日)時点の情報です

かぶと湯温泉 山水楼へのアクセス

 かぶと湯温泉 山水楼は、公共交通機関を使う場合、小田急線の「本厚木駅」「愛甲石田駅」「伊勢原駅」のいずれかからバスで向かうことになります。本厚木駅もしくは伊勢原駅の場合はバスに30分ほど乗車した後、終点の「七沢」で降りて徒歩5分ほどで到着です(愛甲石田駅の場合はバスに20分ほど乗車した後「七沢温泉入口」で降りて徒歩20分ほどかかるので、できれば他2駅から向かう方が良さそうです)。

 地図を見ていただくとお分かりの通り、とにかく奥へ奥へと向かっていくので、神奈川県とは思えないほどの秘湯感があるお宿になります。今回の紙懐旅では後続の予定の都合でクルマでの移動だったわけですが、本厚木から運転していくと、みるみると自然豊かな景観になっていくのが印象的でした。

道中にある東丹沢七沢温泉郷の看板

 温泉としては「東丹沢七沢温泉郷」に含まれるのですが、この辺りはどうしても湯量が豊富でないことから、源泉かけ流しで提供されているお宿が非常に少ないエリアだと感じています。かぶと湯温泉 山水楼(以下、山水楼)は、その中でも源泉かけ流しにこだわっている希少な存在と言えます。ちなみに僕の知っている限り、神奈川の県央エリアで源泉かけ流しを味わえるのは山水楼の他に、七沢温泉「七沢荘」の貸切風呂と、鶴巻温泉「元湯陣屋」の部屋風呂だけです。そう考えると、パブリックな環境で源泉かけ流しを提供しているのは、こちらの山水楼だけということになります。(他にこのエリアで源泉かけ流し温泉がある場合はぜひご連絡ください)

神奈川県道64号伊勢原津久井線から一本入った道を進むと宿への案内看板が見える。この時点で相当な秘湯感が漂っている

外観&ロビー

 先ほどの看板が設置された小道を下っていくと、目的のお宿が見えてきます。自動車移動の場合は道中に駐車場があるのですが、普通車10台でいっぱいになります。土日祝日で日帰り入浴客が多いタイミングだと、駐車できないリスクが高まるのでご注意ください。実際、これまで3回の土日に訪問したのですが、うち一回は駐車待ちで15分ほど待つことになりました。

入り口がいい感じで鄙びていて最高です
 

 ロビーに入ると、いい感じにノスタルジックな空間が広がっています。向かって右奥には、インパクトのある甲冑が飾られています。こちらの兜はホームページのトップページにも表示されていることから、これが温泉名の由来なのかと思うかもしれませんが、そうではありません。かぶと湯温泉は、大正12年に起こった関東大震災の際に田んぼの中の畳二畳敷き位の大きさの岩のふもとから湧き出したのがきっかけだったのですが、その岩が兜の形をしていたことから命名されたとのこと。当時の村人たちは、そのあたり一体の田んぼを「かぶと岩の田んぼ」と呼んでいたそうです。

 

 あと強調したいこととして、館内が非常に清潔です。外観を見ると「中はちょっと小汚い可能性があるな」と思ったものでしたが、いい意味で裏切られました。毎回しっかりと清掃されています。

七沢で捕獲された鹿の剥製と象の木像がある
玄関に入って左側には薪ストーブが置かれており、冬になると薪がくべられて稼働するという。写真を撮るのを忘れてしまったので、代わりに、ロビーに置いてあった写真ファイルに収められた冬の薪ストーブの様子をご覧いただきたい
昔ながらの洗面台に癒される

お部屋

 

 訪問はいずれも日帰り入浴なので客室の様子を直接は確認できていませんが、こちらもロビーにある写真ファイルである程度はチェックできました。全部で10室あり、全体的に囲碁ごちが良さそうな空間です。X(旧Twitter)にも、少しですが客室の様子がわかる投稿があります(こちらとか)。

階段から上が客室エリア。階段もピカピカだった

 客室の様子については、以下の一般社団法人厚木市観光協会が作成したPR動画でも少しだけご確認いただけます(1:21〜)。ご主人のこだわりや誠実さが滲み出てくるような出来なので、ぜひご覧いただきたいです。

お食事

 「昼のお食事付プラン」では個室コースと広間のお食事コースがあります。この時は娘と2人(大人1名、子供1名)で行ったのですが、予約の電話時に相談したところ、基本的には個室コースは大人2名からチョイス可能とのことでしたので、僕たちは後者の広間での食事になりました。

 食事会場となる広間は2階にあります。階段を上がったところで、特徴的な仮面が5つ飾ってありました。

 

 「独特な感性だな」と思ったのも束の間、広間に入ると、さらにたくさんの装飾物で賑わっていました。国内各所の民具や装飾品でしょうか。昭和ノスタルジックなロビーとは全然違う雰囲気の空間に驚きつつ、これはこれで味のある空間になっています。

 
 
 

 こちらのお宿のこだわりとして、温泉の他に食事も挙げられます。ホームページの料理のところに「大切な料理です。他人には任せられません。」と書いてある通り、食事は全てご主人が調理されているとのこと。この日の昼食は岩魚を中心としたもので、非常に美味でした。

アップ写真を撮るのを忘れたが、左上のなすの煮物は蛇腹なす(蛇腹のように無数の切り目が入ったもの)で、非常に手が込んでいた。ちなみに真ん中の胡瓜にも細かく包丁が入っていた
 

温泉

男性は「木立の風呂場」、女性は「清流の風呂場」と命名されている

 山水楼では先述の通り、大正時代の「かぶと岩」から湧き出した源泉を今も自家源泉として使用しています。源泉名は「かぶと湯温泉」で、泉質が17.5℃と非常に低いことから、加温だけされています。温泉分析表を見る限り、泉質としては「アルカリ性単純温泉」で、pH値は9.7もあります。またメタケイ酸の含有量も69.7mgとなっており、一般的に50mg以上であれば美肌に有効とされていることから、非常に肌に優しい泉質であることが推察できます。

 湧出量が限られる中で源泉かけ流し100%を維持しようとすると、どうしても湯船を小さくする必要があります。この温泉分析表には記載されていませんが、別の温泉ソムリエの方のブログ記事で「湧出量は毎分5リットルほど」との記述があるため、湯船の大きさも相応のこじんまりとしたサイズにする必要があります。内湯は4人も浸かるといっぱいになる感じです。

湯桶はケロリン♪ この時は遅めに昼食をいただいた後だったこともあり独泉状態

 肝心のお湯加減ですが、まあ本当に素晴らしいです。強アルカリ性でメタケイ酸が豊富ということで、身体に膜が張るようなヌルスベ感を感じます。そのトロットロ感に、結構感動します。こんな素晴らしい泉質を、本厚木駅から30分くらいの場所で味わえるとは思いませんでした。このレベルのお湯が、神奈川の真ん中で、ボーリングも機械くみ上げもせずに自噴しているのは奇跡だと感じます。

お湯は無色透明で、特に味もなし。臭いは本当に若干の硫化水素臭がするくらい
男湯の内湯では、この2つの独特な兜形状の給湯口からお湯が出てくる

 内湯にあるドアから出る形で、露天風呂へと入ることができます。露天風呂は内湯よりもさらにサイズが小さく、こちらは3人程度がギリギリと思われます。目前には七沢の森が広がっているので景観がよく、マイナスイオンに癒されます。

すぐ脇を流れる沢のせせらぎが心地よい
無色透明なトロットロのお湯
お風呂上がりの休憩スペース。広間と同様に凧やお面が飾られている

おわりに

 

 記事執筆時点で3回、山水楼の日帰り温泉を体験しているのですが、うち1回は大雨のタイミングでした。雨の山水楼も非常に趣深く、特に露天風呂で雨音を聞きながらの入浴は極上の癒し体験です。一方で雨が降ると泉質にも変化があるようで、僕が入った時は身体に膜が張るようなヌルスベ感が随分と弱まった印象でした。自噴源泉ということで、こういった天候の影響も大きいのかもしれません。

 いずれにしても、しつこいようですが、こんなに良質な温泉が神奈川県央にあることに感動を覚えます。しかも源泉かけ流し100%ときたものですから、多少無理をしても近くに来たら入浴したいところです。海老名や本厚木、町田など、小田急線の真ん中あたりに出張がある方は、足を伸ばしてみてはいかがでしょう。

 いやぁ、温泉って本当にいいもんですね~♨︎

文:ナガオカタケシ