永和温泉 みそぎ湯 神様温泉(愛知県愛西市)|マネキンが門番を務める異界の日帰り温泉

知県は温泉資源がそこまで豊かではないという話を聞いたことがあるので、名古屋出張と聞いてもそこまで心が踊らなかったわけですが、なんと、名古屋から30分以内のアクセスで良質な源泉かけ流し温泉を見つけました。その名も「みそぎ湯 神様温泉」。

 なぜ「みそぎ(禊)」なのか。そして、この水産物を入れておく水槽のようなコンクリート浴槽は一体何なのか。名古屋近郊にある、「マネキン」が門番を務める異界の日帰り温泉への入湯記録です。

※他文献等では基本的に「永和温泉 みそぎの湯」と記載されていますが、浴場前に掲示されている公衆浴場営業許可証(2003年発行)の施設名には「吉野屋温泉みそぎ湯」と記載されています(地元の新聞でもこの名称が用いられていました)。一方で入り口付近の倉庫の張り紙に「令和4年10月1日より みそぎ湯 神様温泉 です」と記載があったので、本記事ではそちらを優先しつつ源泉名である永和温泉を頭につけて、タイトルを「永和温泉 みそぎ湯 神様温泉」と表記することにしました)

※本記事は訪問日(2023年4月29日)時点の情報です

永和温泉 みそぎ湯 神様温泉へのアクセス

 今回の目的地は、JR関西本線「永和」駅から車で10分ほどの場所にあります。名古屋市から2〜3の市町を挟んだところにある愛西市にある永和駅は、名古屋駅から電車で15分強のところにあるので、「名古屋の源泉かけ流し温泉」と勘違いしてしまうくらいのアクセスの良さです。

永和駅の跨線橋(こせんきょう)からの眺め

 駅から歩いてもよかったのですが、この日は夕方には東京に戻る必要があったため、タクシーで向かうことに。タクシーの運転手さんに「温泉に行くんです〜」と言っても、指定した住所付近の温泉についてはピンときていない様子でした。僕がこの「永和温泉 みそぎの湯」を知ったのは書籍『日本百ひな泉 〜これからの温泉の新基準!』での紹介だったのですが、宗教法人が運営している日帰り温泉施設ということで、地元ではそこまで知られていないのかもしれません。むしろこの近辺で温泉というと、日光川の東側にある「尾張温泉東海センター」を思い浮かべるとのことでした。ちなみに、尾張温泉東海センターも良質な源泉かけ流し温泉を楽しむことができるので、いずれ紙懐旅でもご紹介しようと思っています。

岩本薫&ひなびた温泉研究員(著)『日本百ひな泉 〜これからの温泉の新基準!』みらいパブリッシング, 2021

外観

 

「ああ、吉野屋さんですか」

 そう言って、住宅街の中にあるお店の前で車を止めるタクシーの運転手さん。宗教法人と聞いていたからそれらしい建物があるのかと思いきや、目の前にあるのは雑貨店のような衣料品店です。2階の看板部分に大きく「吉野屋」と書かれていることもあり、運転手さんはこのお店の存在自体はご存知のようでしたが、ここで温泉に入れることは知らないとのこと。

 店頭から視線を移すと、隣接する形で神様を祀っているお堂があり、その手前には「吉野山南無蔵王尊」と書かれたのぼりが立っているので、ここで間違いがないようです。

 
 

 お堂に近づくと、幾多の本やブログ記事で話題になっている“アレ”が健在でした。そう、マネキン人形です。ちょうど表にいらっしゃった女性(吉野屋店主の奥様と思われる)に聞くと、こちらのマネキンは“招く神様”であり、また門番のような役割も兼ねて置いているとのこと。遠くから見ると神官用の白衣のようなものを着用しているのかと思いましたが、近くで見るとホワイトスウェットなんですね。

 また、近づくと単音ブザーが鳴るのですが、これは以前(と言っても平成前半あたりの話)無断・無賃で入浴している輩がいたからとのこと。後から写真を見て気づきましたが、マネキン以外にも複数の日本人形が、入り口を見張るように置かれていました。これらも門番の役割を担っていると思われます。

 いずれにせよ、何も知らない通行人が見ると少々ギョッとしそうな妖しい雰囲気が漂う空間ですが、温泉に向けて事前情報を収集してきた者が見ると、一種の愛嬌すら感じる場でした。なお、マネキンに向かって左側には祭壇があるのですが、そちらは写真撮影はご遠慮くださいとのことでした。(湯船等他写真については撮影許可をいただきました)

 こちらの温泉は神仏習合の宗教団体「霊感不動教会」の信者さん専用に設置されたものだそうで、信者の方は1回につき220円で入浴できるとのことです。信者専用と謳ってはいますが、僕のような非信者であっても、300円のみそぎ料を支払えば入浴できるとのことです。(他文献等では「信者:100円、非信者:200円」と表記されていることが多いですが、令和3年9月1日に価格改定があり上記料金体系「信者:220円、非信者:300円」に変更となっています。なお非信者の子供は110円で入浴できるとのことです)

ボール紙で作成されたお賽銭箱

 「初めてのかたは吉野屋へ連絡」との張り紙があったので、まずは吉野屋店内に行き、温泉に入りたい旨をお伝えしました。ここでタオルを購入することもできます。

 
今回は黄色のカラータオルを購入(230円也)

 その上で、今回は奥様と一緒にお堂へと戻り、お賽銭箱にみそぎ料(お賽銭)を入れて、ちゃんと二礼二拍手一礼でお祈りをしてきました。ちなみに、僕はご依頼しませんでしたが、お願いすればお経を読んでくれるとのことです。

内観

 

 入浴場はお堂の裏手にあるとのことで、向かって左手の小路から入っていきます。道中で奥様が温泉のことについて色々と教えてくださったのですが、基本的に宗教のことについては触れられていませんでした。宗教施設ということで何かしらの勧誘があっても不思議ではないのですが、そんな様子は全くありませんでした。

温泉小屋の入り口には、その月時点での信者会員名簿(苗字のみ)が貼り出されている。僕が行った時(2023年4月時点)は60名の名前が列挙されていた。なお、どんなに増えても100名限定とのこと

 入浴場は青色の塩ビ波板でできており、鄙びた温泉好きとしてはたまらない空間となっています。向かって右手が女湯で、左手が男湯になっています。

信者へのアナウンス事項や取材記事の切り抜き等が掲示されてある
2003年発行の公衆浴場営業許可証では施設名が「吉野屋温泉みそぎ湯」となっている
 

温泉

 こちらの温泉の源泉名は「永和温泉」。温泉分析表を見ると、「ナトリウムー塩化物・炭酸水素塩泉(低張性弱アルカリ性高温泉)」となっています。湧出地を見ると当施設から600mほどのところにあるようで、泉温は48.5℃とのことですが、当施設まで引っ張る頃にはいい感じの温度まで冷めていることが想定されます。

 浴室のドアを開けると、コンクリート打ちっぱなしの浴槽が無骨に配置されていました。なんてインパクトのある光景なんでしょう。2m×3m程度のスペースに、3つの四角い浴槽がテトリスのように組まれており、養殖魚にでもなった気分です。

 温泉は向かって右側と真ん中の浴槽にそれぞれホースから給湯されており、また浴槽全体の設計として、お湯が右→真ん中→左(手前)へと流れていく仕組みになっていました。つまり、最も新鮮なお湯は右の浴槽ということになります。

 

 お湯は無色透明で、所々に小さな白い湯の花が舞っています。舐めるとすこーーしだけ塩分味があり、臭いもすこーーーしだけ硫化水素臭がしました。シンプルなお湯に見えますが、結構クセになりそうなお湯です。若干つるっとした肌心地もあり、一番手前の低い浴槽であれば温度も低まっているので、延々と浸かっていられる感じでした(ちなみに一番右の浴槽は42〜3℃といったところでした)。現に僕は他の信者の方が入浴している中で空気を読まず、1時間近く浸かっては出てを繰り返しており、その信者の方も「ここのお湯が一番気持ちいいんだよね」とおっしゃっていました。

排水溝はお湯が流れるように高さを変えて削られている
浴場には最低限のバスチェアと桶があるだけで石鹸類は置かれていない。またシャワーもなく、身体を流したい場合は温泉をかけ湯するか、もしくは水道の蛇口からお水を出してそれをかけるかのどちらかになる
まさにバラック小屋にある極上のお湯。浸かっていると、たまに入り口の単音ブザーの音が小さく聞こえてくる
 

おわりに

 

 こちらの源泉(永和温泉)は、温泉供給事業を展開する永和温泉開発株式会社から引湯しているとのことです。1968年にボーリングして地下1250mからの温泉湧出に成功した際に、先代のご主人が地鎮祭をしたご縁で、1972年よりお湯を引かせてもらうことになったのだとか。掲示された新聞記事によると、先代のご主人は奈良県吉野郡にある大峰山にて修験道を修行されたこともあって、先述の地鎮祭をすることになったのだとか。

 現在はみそぎ湯 神様温泉以外にも、付近の民家や老人ホーム等福祉施設にも配湯しているとのことで、自宅でいつでも100%源泉かけ流しの温泉に浸かれるって相当いい環境だなと感じた次第です。

 名古屋近辺にいらっしゃる方や、名古屋への出張が入った方は、少し足を伸ばしてみて、住宅街にポツンとある源泉かけ流し100%のお湯に浸かってみてはいかがでしょうか。

 いやぁ、温泉って本当にいいもんですね~♨︎

文:ナガオカタケシ